龍馬がゆく〜SBG株と共に〜

龍馬が、SBG株命で億り人なるまでのドラマです 億り人なっても酔いしれて書きますよ

最強vs最恐なんだってよ

米国でも「最恐」と恐れられる物言う株主、エリオット・マネジメントが、孫正義会長兼社長率いるソフトバンクグループ(SBG)に物申したことが明らかになった。その内容は最大200億ドル(約2兆2000億円)の自社株買いや社外取締役の増員などだ。孫正義会長兼社長も今や世界に名をとどろかせる「最強」の投資家。「最恐」VS「最強」の戦いが始まった。


 エリオットは25億ドル(約2700億円)以上を投じ、SBG株の発行済み株式数の約3%を保有しているとみられる。エリオットにとっても1社に対する投資としては過去最大規模だ。既に孫正義会長兼社長らSBGの首脳と面談し、要求を伝えたとみられる。自社株買いと社外取締役の増員のほか、SBGが運用するソフトバンク・ビジョン・ファンドの運用の透明化も要求しているようだ。


 そもそもエリオットとは何者か。アクティビスト(物言う株主)が数多くいる米国ですら「最恐」と恐れられることから分かる通り、その強面(こわもて)ぶりは半端ではない。率いるのはポール・シンガー氏で運用資産は約4兆円もある。2001年には債務不履行に陥ったアルゼンチン国債を買い集め、同国政府と法廷闘争を繰り広げるなど国家相手の闘いすらいとわない。アルゼンチン海軍の船を差し押さえるなど、ありとあらゆる手を尽くし、最終的に15年に及ぶ裁判を経て国家に勝利した。


 民間企業に対する要求も過激だ。韓国のサムスン電子に3兆円近い株主還元を求めたことがあるほか、米アルミニウム大手のアルコニックやオランダ塗料大手アクゾ・ノーベルのトップを辞任に追い込んだ実績も持つ。18年にはイタリアのサッカー名門、ACミランのオーナーにもなっている。


 日本でも実績を残している。米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)による日立国際電気の買収時には、日立国際電気の大株主としてTOB(株式公開買い付け)価格の引き上げ闘争を仕掛けた。足元では米ファンドによる買収やそれに対抗したEBO(従業員による買収)で争奪戦の様相を呈しているユニゾホールディングス株も保有し、キャスティングボートを握る存在になっている。


 そんなエリオットはなぜ今、SBGに挑みかかったのか。約25兆円分の価値を持つ株式を保有するにもかかわらずSBG自体の時価総額は10兆円程度しかない、つまり世界で最もアンダーバリューな銘柄、というのが最大の理由というが、それだけではないだろう。香港拠点のヘッジファンド関係者は「ウィーワーク(運営会社はウィー・カンパニー)など最近は失敗が重なっており、孫さんがアンタッチャブルな存在ではなくなった」ことを理由に挙げる。


 孫会長兼社長はこれまで、世界でも目利き力を持った最強の投資家として一目置かれてきた。それが最近はウィー・カンパニーやウーバーテクノロジーズ、スラック・テクノロジーズといった投資先の企業価値下落が続いており、その神通力に陰りが見えたというわけだ。「SBGにものを言いたい投資家はいっぱいいたが、みんな孫さんに忖度(そんたく)していた。でもこれでどんどん声が上がるのではないか」(国内大手証券幹部)。


 SBGも孫会長兼社長も自社の株価が割安という見解には同意している。そしてエリオットとは株価上昇という同じゴールを目指しており、対立しているわけではないと強調する。確かにゴールは同じで、今は対立していないかもしれない。だがこれからは分からない。ゴールは同じでも、そこに至る過程や手法が同じとは限らないからだ。


 自社株買い自体はSBGも昨年実施しており、株価上昇の手法としては双方とも異論がないかもしれない。ただ200億ドルもの規模感となると別問題だろう。しかも事情に詳しい関係者によると、エリオットは200億ドルの原資として、アリババ集団など保有する上場株を1割売れば、捻出できると求めているとみられる。果たして孫会長兼社長がその要求に応じるのか。そもそもそれだけの原資があるなら約16兆円にもなる有利子負債を返した方がいいのではないか、という声も上がりそうだ。


 さらに社外取締役の増員とビジョン・ファンドへのガバナンス強化問題は、孫会長兼社長の自由度を減らそうという動きにほかならない。自らの目利き力によって今の立場を築き上げた孫会長兼社長が、その要求をどうとらえるか。一緒に買収案件をこなしたことのある金融機関幹部は「こんな要求を素直に聞くような孫さんだったら孫さんじゃない」と苦笑する。


 しかも「孫さんにきちんとものを言える社外取締役などいるのかという問題もある」。かつてSBGの社外取締役を務めていた「うるさ型」の永守重信・日本電産会長や柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長のような人材はなかなかいないからだ。


 だがエリオットはおそらく本気だろう。孫会長兼社長が要求にゼロ回答だった場合、すごすごと引き下がるとは思えない。しかも今回の案件では、エリオットのアジア拠点の香港部隊ではなく、ロンドンの部隊が前面に出てきている。エリオットは各拠点の自由度が比較的高く、拠点ごとに特徴があると言われる。そしてロンドンの方が香港よりもはるかに好戦的、攻撃的なのはつとに知られている。


 それとも今回の株取得報道で急騰したSBG株でひと稼ぎしてさっと抜けるのか。「自社株買いの原資捻出として要求したアリババ株などをショートしているはず」(シンガポールのヘッジファンド関係者)ならば、ひと稼ぎどころか二稼ぎ、三稼ぎくらいするのかもしれない。


 いずれにしてもこれまで恐れ多くて誰も近づけなかった孫会長兼社長にとうとう言い寄った格好のエリオット。「最恐」と「最強」の戦いからはしばらく目が離せそうにない。

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